公正証書による遺言を作成さえすれば、常に有効かというとそうとも限りません。裁判で有効性を争う場合、遺言者の「遺言能力」と「口授」の要件がポイントです。
法的に言えば、遺言者が、公証人に対して、遺言の内容を口頭で伝え(口授)、その後に証人が筆記して、遺言者と証人に対して読み聞かせる又は閲覧させるかして確認し、それぞれの署名押印を貰うというのが本来の流れです。
しかし実際には、公証人との間で、予め遺言の内容を書面化しておき、それを遺言者らに読み聞かせるというのがほとんどであり、遺言者が公証人に対して遺言の内容を口頭で述べるということは省略してしまっているのが実務です。
上記のような流れをとると、ほとんどの公正証書遺言は「口授」の要件を欠いて無効ということになってしまうので、判例上、公証人が先に準備した書面を遺言者に読み聞かせしたりした場合であっても、
- 遺言者がその書面の作成過程に関与していたかどうか
- 遺言者の判断能力(遺言能力)が当時著しく低下していなかったかどうか
- 遺言者が公証人の読み聞かせに対して、単に「はい」などと言って肯定する旨を述べるのみではなく、書面の修正等を依頼するなど具体的指示をしていたかどうか
などの事情を勘案して、実質的に「口授」があったと認められるかどうかが重要です。
遺言者の自宅や入院先へ公証人が出向いて、遺言公正証書を作成する際も同様です。裁判で争って無効か有効かが確定するまでは時間を要しますし、結果によっては不利益を被ることになりかねません。認知症の可能性のある方が遺言者の場合は注意が必要です。